●<<図>>
『
ダイヤモンドオンライン 2012年11月30日
http://diamond.jp/articles/-/28684
国民悲願の「公平に」は絵に描いた餅?
習近平政権にのしかかる「社会格差」の負の遺産
11月、中国では新政権の発足とともに、新しい時代が幕開けした。
だが、新しいリーダーたちに期待を抱く国民はどれほど存在するだろうか。
少なくとも上海は、もともと政治への関心が低い土地柄というせいもあるだろうが、メディアの騒ぎとは裏腹に、上海市民の無関心さは際立っている。
彼らの声を拾ってみると、そこにあるのは期待ではなく、むしろ諦めであることがわかる。
「まったく期待しない」
「器が変わっただけ」
との冷めた反応は少なくない。
「新政権に期待を寄せる連中がいるとしたら、それは相当問題だ」
というコメントすらあった。
■新指導部はどう人民に尽くすか? 国民の切実な願いは収入格差の是正
11月14日、中国共産党の第18回党大会が終わり、翌15日、習近平氏が党総書記に選出されたが、そんな上海市民も耳を傾けたのが、習近平氏が記者団に向けて行った演説だった。
「対人民負責、為人民服務」(人民に対して責任を負い、人民のために尽くす)――。
毛沢東氏が残した有名な政治スローガンに「為人民服務」という言葉がある。
残念ながら今の中国では、人民は党員幹部らの汚職の犠牲となっており主客転倒な状況だが、習近平氏は本来の「人民のため」への回帰を強調すべく、「対人民負責、為人民服務」という言葉を使ったのだ。
政治に無関心な上海市民も、その一言には一定の評価を与えたようだ。
では、人民のためにどう尽くすべきなのか。
「新政権が解決すべき課題とは?」
という筆者の問いに、上海市虹口区に住む会社員の女性は、切実にこう訴えた。
「収入を上げてほしい」
この女性の現状の収入では、近年の物価の上昇について行けないどころか、中国独自の生活習慣にもついて行けなくなることを打ち明けた。
「父親が手術をしたが、執刀医、麻酔医、看護婦長それぞれに1万元ずつ包んだ。
娘は学費以外の“教育費”がかかる。
担任に渡す贈答品で毎年、数千元が消える。
自分の給料は3000元。
夫の給料と併せても、生活は非常に困難」
国民の切実な願い、それは
「いかにして収入を増やすか」
にある。
■同じ中国人でも、給与格差はなんと4000倍
「更公平」(もっと公平に)というスローガンは、中国共産党第18回全国代表大会において、最も重視された社会的要求として打ち出された。
所得をいかに再分配するかの改革は、新政権にとって胸突き八丁の重要課題となる。
中国経済は過去30年以上にわたって驚異的発展を遂げたものの、国民の収入といえば、必ずしもその成長に追いついているとは言い難い。
特に改革開放政策以降、都市部と農村部の格差、地区によっての格差、業界における格差など、中国社会はあらゆるシーンで大きな格差社会を生み出した。
国は富み大国にはなったものの、置き去りにされた民は、富とはまるで無縁の環境にある。
中国の人力資源和社会保障部(日本の厚生労働省に相当)の労働工資研究所が発表した「中国薪酬発展報告」(給与調査報告書)によると、大きく開いた給与格差が浮き彫りにされている。
例えば、2011年(※)の一般企業労働者の年収は4 万2452元(約53万円)。
これを金融業界職員の年収約30万元(約375万円。
福利厚生費を含めれば36万元で約450万円)と比べるとその差は7倍となる。
また、上場企業の管理職の年収は約69万元(約863万円)で、一般企業労働者のおよそ16倍の開きとなる。
この報告書では、中国の保険会社で総経理職が手にする年収を取り上げ比較を行っているが、07年(※)、中国平安保険集団の総経理職は年収6616万元(約10億2550万円)で、一般労働者との格差は実に2751倍の開きがあると伝えている。
農村からの出稼ぎ労働者である民工が手にする収入と比較するとその差は4553倍となる。
<<図>>
報告書は
「中央政府が経営権を握る企業、あるいはその業界を独占的に支配する企業は、給与水準が非常に高い」
とし、政府系企業と民間企業の格差、業界独占か非独占かによる格差が存在することを指摘している。
同時に、業界内でも金融や不動産業界は桁外れの高収入が得られること、また企業内部でも管理職と一般職員との間には大きな格差が存在することなどについても言及し、そこには構造的な問題が存在する点を指摘している。
[※2011年の為替レートは1元=約12.5円、2007年は1元=約15.5円で換算]
政府と社会の対立軸で見れば政府に富が集中し、
労使関係という対立軸においては経営者に富が集中し、
業界で見れば独占業界に富が集中する――、
確かに中国の経済発展がもたらした負の遺産は、実にゆがんだ富の一極集中である。
■所得倍増のかけ声も、負担は企業に押しつけ
「もっと公平な世の中に」というのは、中国の一般国民に共通する悲願でもあるが、果たして収入格差を是正することができるのだろうか。
第18回党大会では
「国民1人当たりの平均所得を2020年までに2010年の2倍に引き上げる」
とする所得倍増計画が打ち出され、話題を呼んだ。
このように具体的な数字を盛り込んだ目標の発表は初めてだと言うが、これを鵜呑みにするほど中国国民も単純ではない。
それが社会の不満を抑え込むためのパフォーマンスであることはたいていの国民がすでに見抜いているところでもある。
収入格差は今に始まった問題ではなく、以前から指摘され、改善が待たれているが、中国政府が行政として身を切るような、具体的な是正策を打ち出したためしがないからだ。
それどころか、行政として解決すべき問題を民間の経営者に押しつけている側面すら垣間見られるのだ。
上海市で飲食業を営むHさんは言う。
「企業経営者は立ちゆかない経営で苦しんでいるのに、どうやって従業員の賃金を上げることができるだろうか」
近年、最低賃金は毎年20%程度の割合で引き上げられている。
Hさんの雇用する100人の従業員の月収は、07年の1000元から2010年以降は2000元に“倍増”した。
2008年1月に施行された新労働法による労働者保護の立場が、労働者の不満解消のためにより厳しくなったせいでもある。
労働者の賃金引き上げは、すべて雇用主である経営者にその負担のしわ寄せが行くしくみだったのだ。
しかし、労働者の待遇に配慮できるほどHさんの商売はうまくいってはいなかった。
地価、物価、原材料とすべてが高騰する一方、世の中は不景気。簡単に単価を引き上げるわけにはいかない。
モノやサービスが売れず、民間企業が利益を獲得できない中で、どこに従業員の収入を向上させる余地があるのだというのだろう。
Hさんは話す。
「企業に対しては減税措置、あるいは従業員に対しては国から補助金があればなんとかなるだろう。
中国政府はこうした政策を打ち出せるかどうかだ」
しかし今となっては後の祭りだ。
Hさんは今夏、経営の維持を諦め、ついに店を閉めた。
政府はこれまで、民間企業に犠牲を強いることで、富を集中させることを可能にした。
「税金」という名目で吸い上げ、それでも足りない分は「罰金」という名目で、富をしこたま吸い上げてきた。
“大地主が小作人から搾取する”かのような世の中は、共産主義国家においても連綿と続いている。
政府による過度な“取り立て”により、利益を失い、倒産の憂き目に直面する中国企業は少なくない。
労働者にとっては、安定的な職場を失うことにもなりかねず、
彼らには所得倍増どころか、明日の生活の保障すらないという連鎖にもなっている。
行政が解決すべき難題を民間に押しつけ、肥え続ける政府と役人。
その政府が提唱する「為人民服務」や「更公平」というスローガンは、名ばかりのパフォーマンスとなるのか。
新政権にどのような具体策が出せるのか、注目されるところだ。
』
『
サーチナニュース 配信日時:2012年12月9日 9時20分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=67234&type=0
日本の「所得倍増計画」が成功した4つの点―中国メディア
2012年12月7日、1960-70年代に実施された日本の「所得倍増計画」は10年内に国民所得を倍増させるという目標の成長率を大幅に上回り、約7 年で倍増を達成した。
この「所得倍増計画」はどのようにして達成され、予想を上回る効果を挙げたのか?
中国商務部(商務省)国際貿易経済協力研究員で日本経済を研究する金柏松(ジン・バイソン)研究員は
(1)政府の関与と経済自由度のバランス
(2)労働生産性の向上
(3)知的財産権の保護
(4)所得格差の縮小と有効需要の拡大
の4点を指摘する。中国のウェブサイト「経済参考網」が伝えた。
(1)政府の関与と経済自由度のバランス
日本政府は経済介入に対して、極めて綿密できめ細かな計画を立てていたことが、所得倍増計画から見て取れる。
公共計画の部分に詳細な実施規則を設けただけではなく、指示的計画とした。
民間に対しては予測や展望の形式で計画目標を制定し、政府の公共政策で企業の発展を推進・促進した。
その中では、同業組合や商工会議所も重要な役割を果たした。
政府は法律に基づいて行政を行い、経済には政府同業組合や商工会議所を通して関与するだけで、具体的な企業には原則的にかかわらない。
同業組合や商工会議所を通して企業の発展を指導・推進・促進することで、計画を達成した。
(2)労働生産性の向上
国民の所得水準を高める鍵は労働生産性を上げることにある。
実際、国際社会が各国の経済水準や企業競争力を比較する場合、労働生産性や資本利益率などの効率指標をより重視している。
現在、中国の学者は所得増加や「有効需要」(貨幣的な購買力に裏付けされた実現可能な需要)の拡大を提唱している。
しかし、当時の日本と同じく、中国の企業界にも労働所得の増加に反対する声がずっと存在しており、新たに発表された労働法への風当たりからその一端が垣間見える。
日本政府が制定した所得倍増計画は盲目的に一方の意見を聞いたり、信用したりせず、学者の意見を取り入れ、経済学の基本原理からスタートして、所得倍増計画を科学的に制定。
労働生産性を2倍以上に向上させることで所得倍増を実現する方針を打ち出した。
これは企業に粗放型の成長方式から、科学技術により研究開発力を高め労働生産性の向上を図る新たな成長方式への転換を余儀なくさせた。
(3)知的財産権の保護
労働生産性を高める鍵は、知的財産権を侵害する行為を徹底的に取り締まることにある。
日本の市場経済システムでは、経済にかかわる要素はいったん経済システムに入れば、必然的に資本経営に基づき、具体的な資本価値のある資産になる。
しかも、すべての資産は明確な所有者に帰属し、所有者の権益は侵害されない。
日本では、知的財産権は資本利益であるだけでなく、国や企業の核心的利益であるという考え方が広く受け入れられている。
しかし、知的財産権や技術特許は非常に簡単に流失してしまうものであり、資本権益の侵害に遭いやすい。
だからこそ、国を挙げて官民一致で知的財産権益を保護し、司法と執行部も厳格に一切の知的財産権の侵害行為を取り締まる。
この措置により、日本企業は安心して技術導入や研究開発に大規模投資を行い、自主研究開発や自主革新を奨励するようになった。
これにより、労働生産性の向上に必要となる技術的なニーズが満たされ、従業員の所得と企業の国際的な競争力が同時に上昇した。
(4)所得格差の縮小と有効需要の拡大
日本政府は所得倍増を実現する具体策を策定するに当たり、
▽.所得を増加させる過程で所得の格差を縮小させる
▽.中・低所得者層の所得をさらに向上させる
▽.サラリーマン階層、中産階級を育てる
―の3つの要素を考慮した。
これは有効需要の拡大だけでなく、社会の安定にも役立った。
都市、企業では所得格差の縮小は、「産業構造の高度化」により、遅れた産業能率化を淘汰し、大企業の再編や中小企業との提携などの方式で実現された。
一方、農業従事者と都市生活者の所得格差の縮小ははるかに困難だった。
農林水産業の特徴は労働生産性の向上が第2次、第3次産業より遅い点にある。
第1次産業従事者の所得を向上させる方法は所得の再分配しかなく、日本政府は
▽.農林水産品の買い付け価格を定期的に引き上げる
▽.農村のインフラ整備や農林水産技術の研究に対する公共投資、農業機械化への補助金支給を行う
―などの措置を講じた。
(提供/人民網日本語版・翻訳/MZ・編集/TF)
』