2012年12月3日月曜日

ロシアはどう動く:というよりどう動ける

_



 
 中国の膨張に一番懸念をもっているのがロシア。
 モンゴルを卵のように中間に挟んで左右に長い国境線をもって中国と接している。
 もちろん今、西側はカザフスタンに変わっているが、東はもとのまま。
 そしてここが圧倒的に長い国境線でもある。
 北東にアワのように吐出した中国領土のぐるりを囲んでいるロシア。
 日本は海という緩衝空間があるが、ロシアはまさに地続き。
 旧大国と現大国が地続きで接しているところは、世界にここしかない。
 中国は朝鮮の北側に海に接する領土をもっていない。
 中国はこの部分に海にでていく地面が欲しい。
 よって早晩、この地域を「中国固有の領土」と申し立ててくることは明らかだろう。
 そのことを考慮すれば、世界中でもっとも中国の動きに敏感になっているのがロシアといっていい。
 ロシアは今、基本的に「反アメリカ」で中国と共闘しているが、近い将来は「反中国」という形でアメリカと共闘するしか道は残されていない。
 その明瞭にロシアにとっては事実はわかっている。
 よって、それまでどのように中国と付き合っていくのか、どこまで軍事技術を移転すべきかの計算をしている。
 中国の膨張の矛先をアメリカに向けるには、そこそこの援助が必要であろう。
 しかし、それが何時どんな形でロシアに振り向けられるかはわからない。
 ロシアにとってもこれからは薄氷を踏むような日々が待っている。


JB PRESS 2012.11.29(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36636

日本とロシアが手を結ぶ絶好の好機到来
膨張する中国を牽制するためにも、歴史の封印も考えよ

 1週間ほど前にロシアからイーゴリ・シュワロフ第1副首相が来日し、日ロ間の経済関係を日本政府や民間企業と協議する会議に出席した。
 彼は1967年生まれの45歳、東京オリンピックも知らない世代で何ともまだ若い。
 だが、今やロシア政府にあっては押しも押されもせぬナンバー2である。
 1990年代後半に民間から政府に引き抜かれて国家資産の管理を任されていたが、2000年のウラジーミル・プーチン政権発足とともに大臣級に引き上げられ、以後大統領補佐官や大統領府副長官を経て2008年5月に第1副首相に任ぜられている。

極東地区にエースを投入したロシアの本気

 その直後の6月にロシアで開かれた国際経済フォーラムの場で、彼は政府の代表格で登壇して大いに批判をぶった。
 その批判の対象には、当時天井知らずの原油価格高騰の波に乗って怒涛の進撃を続けていたロシアの石油・ガス産業も挙げられ、それらが抱える欠陥を指摘しながら、「(ロシアは)もう自分で自分を騙すことなどやめようではないか」とまで言い切る。
 これには、会場に詰めかけたロシアや諸外国のビジネスマンたちもいささか驚き、そしていくばくかの清新な風も感じたものだった。
 市場経済派の彼は、しかし民間でも実務経験を積んでいるだけあって、原理主義者ではない。
 ロシアの実情を踏まえたうえでどう市場経済を実現していけばよいか、を考えているようだ。
 政治と経済の妥協や接点を求めるタイプとも言え、その面で恐らく考え方が似ている大親分のプーチンに気に入られたのだろう。
 最近になって彼の金銭がらみのスキャンダルが見え隠れするが、政治家なら誰もが持つ向こう傷の1つとして今は眺めておきたい。

 その彼が、ロシア・極東の開発で事実上の指揮官となり、日ロ貿易経済政府間委員会のロシア側のトップにも就任した。
 まさにエース級の投入である。
 プーチンがいかにこれらの問題を重視しているかの証左にほかならない。
 プーチンの狙うところは、ロシアの極東経済を発展させ、人口を増やすことであり、極東への産業・商業双方での資本を内外から呼び寄せてそれを実現することにある。
 国内経済での地域格差解消とそれによる社会の安定化を図り、極東の隣人・中国の経済面での膨張とロシアへのその浸透を将来的に食い止めねばならない。

 その中で、日本はロシアの目に次のように映るだろう。

 「日本にはロシアがその到来を期待する資本と技術がある。
 中韓との揉めごとに巻き込まれてこれらに代わる新たな進出先を探すその日本の資本を呼び込むには、今が絶好のチャンスである。
 そして、3.11以降は、ロシアがアジア方面に出せる数少ない商品であるエネルギー資源で、最大の得意先にもなってくれる可能性が大きい」

 9月にアジア太平洋経済協力(APEC)の閣僚会議が開催されたウラジオストクには、都市整備のために大量の資金が投入された。
 シュワロフは日本のビジネスマンたちに呼びかける。
 「色々批判を書く面々がいるが、好きなように書かせておけばよろしい。
 ともかく、まずは御自分の目でいかに近代的な町が出来上がったかを是非見て下さい」
 これに日本の企業はどう応えるか。
 この7~8月に行われた、ロシア・極東向けのビジネスへの関心の有無を問う経団連のアンケート調査では、回答した162社の約4割が関心なし、3割がすでに極東向けのビジネスに従事、残りの3割が「興味あり」や「行動を起こす予定あり」という結果だった。

日本の中国への好感度が急低下、ロシア進出の可能性模索か

 今年が初めての設問だったためにこれまでの回答の趨勢を見ることはできないが、恐らくは中国の反日行動の影響で、ロシア・極東への進出の可能性も一応は調べてみるか、と考える企業は増えたのではないだろうか。
 最近の世論調査でも、日本人の中国への好感度は2割を切ったようだから、人気ではロシアと肩を並べるほどに落ちた。
 これからを考えても、発足したばかりの習近平体制が対日融和に転ずるとはまだ誰も自信を持って予測はできない。

 マルクス・レーニン主義や毛沢東主義を捨てないと習近平自身が断じていても、国を束ねる当面のイデオロギーは愛国主義しかないから、そうなると歴史問題の中で尖閣を巡る日本との対立はまずやむことはないだろう。
 であれば、出て行く先として中国に代わる相手を、時間はかかっても見つけなければ・・・。
 それでは、アンケートに回答した先発組以外の約7割の企業を、これからロシアがどう惹きつけられるかである。
 結論から言えば、ロシア・極東をアジアのどの国に比べても仕事がやりやすく儲かる場所にするしかない。

 まず金銭面で言えば、進出する資本への税金ゼロである。
 補助金を出してもよいくらいだ。
 次に、対ロシア投資で問題となる煩瑣な行政手続きや腐敗からの解放。
 就任からまだ1年も経ていない沿海州知事のウラジーミル・ミクルシェフスキーはメディアとのインタビューの中で、行政の「治外法権(“オフショア”という表現)」というアイデアを漏らしている。
 香港を念頭に置いているのだろうか。
 経済特区の意味を拡張して、そこに租界地をつくることでもしなければ、という前線を任された立場の深刻な気持ちが伝わってくる。
 そして、将来への夢と展望――産業を興し人口を増やした先に何が来るのか、の構図をロシアは示さなければならない。

 どう経済を振興させようと、ロシア・極東の人口がこれから1億や2億人に増えるはずもない。
 つまり、中国からの人口圧力への懸念は半永久的に消えるものではないのだ。
 その中で、極東の経済安全保障を確保しようというなら、その処方箋は1つしかない。
 中国に侵害された際に不利益を蒙る国と資本の数を自国内に増やし、それによって実現される徹底した国際経済化をバリアーとすることである。
 ビジネスを通じて、ロシアに味方する多勢を創っていくしかないのだ。
 とはいえ、こうした施策の実現が簡単ではないことは想像に難くない。
 そんなことは途上国のやることであって、先進国・ロシアにはそれに相応しいやり方がある、といった民族主義とも世間知らずともつかない根拠なき見方が最初の障害だろう。

 各論に移れば、進出企業への税の減免案はすでにロシア内で議論されているが、極東だけを特別に扱うわけにはいかない、あるいは、そうしたところで国内企業の脱税行為に悪用されるだけ、といった反対論に押されている。
 シュワロフもこれらを理由に税優遇には明確に反対している。

最大の問題は神学・哲学論争

 それだけではない。
 元駐日大使のアレクサンドル・パノフによれば、地場のロシア資本が自分の利益を奪われることを恐れて、裏では外資の進出に反対している。
 ふざけた話にも聞こえるが、この種の民族派の抵抗はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への反対にも通じるものだから、まあ分からなくもない。

 むしろ開発についての神学・哲学論争多々の方が問題だろう。
 それが、「決められない」政治を延々と続けさせる結果になってしまう。
 外資流入促進はいいが、蓋を開けたらほとんど中国企業だった、なんてことになったらどうするのか。
 中国企業だけを締め出せるのか。
 それこそ、外交問題に発展して中ロ紛争再現になりはしまいか・・・・。
 こうした状況を聞かされると、プーチンがこのところめっきり老け込んできたように見える理由も分かる気がする。

 いくら笛を吹いても、である。
 だが、ラジカルな道を選ばなければ、問題は半永久的に解決しない。
 今のロシア・極東は、そのままなら誰にとっても魅力ある土地ではないからだ。
 ロシアはなぜこんな厄介な土地を持ったのか。
 東へ東へ、でウラル山脈から先は未知の世界、その最果てが限りなく広がっていった結果で太平洋にぶつかったから、であるが、その後さらに欲が膨らんだのか、今の極東だけで矛を収める積りはなかった。
 中国の東北三省(旧満州)も含めてぶん取る予定だった。
 それを「坂の上の雲」に阻まれた結果、経済的には東北三省と一体となって生きるしかない土地が切り離されて、ロシア領に残されてしまったのだ。
 他人の土地を奪ったことへの因果応報とでも言うか。
 そして、今のロシアの悩みは100年余前に日本が埋め込んだ爆弾とも言えるかもしれない。

 「極東」という呼び名は、たぶん19世紀に覇権を争った相手の英国のそれを踏襲したものだろう。
 だがそれは、大英帝国本土から海を通して眺めて生まれた元祖・極東の意味や範囲とはだいぶ異なる。
 西は太平洋岸から3000キロ以上も奥まったバイカル湖辺りまで、北は北極海からカムチャツカ半島、それに千島列島やサハリンなどの島嶼がすべて含まれる。
 その面積たるや622万平方キロ(極東連邦管区)で、これは豪州大陸の86%、アラスカを除いた米国本土48州の81%にも及ぶ広大な地域である。
 ロシアが「極東の開発」と述べる際には、日本人には実感が湧かないこの広さ全体の国土総合開発を意味している。
 日本海に近い大陸部の対外経済関係だけを論じていただけでは済まない。
 けれども、話が気宇壮大であればそれだけビジネスの世界からはかけ離れるし、話をまとめる場合に広い地域に散在する各要素を考慮しなければならなくなり、それが膨大な数に上るものだから、議論が発散してしまって後が続かない。

極東や東シベリアからの電力を日本へ??

 極東や東シベリアの豊富な水力で電力を起こし、安価なそれを日本へ、といった話も耳にする。
 だが、水源は太平洋岸からは3000~4000キロは離れている。
 その送電距離を考えたら、末端の電力価格がいくらになるかで最初から「話すのは無駄」になる。
 あの経済性無視のソ連体制下ですら、そんなことはやらなかった。
 電力が駄目なら、ガスでも石油でも・・・。
 いずれも電力同様に、やるなら3000キロを超える内陸部での長距離輸送が必要となる。
 開発と輸送のコストをそのまま製品価格に乗せたなら、まず誰も手は出さないだろう。
 残念ながら、ウラジオストクの傍に油田やガス田がわんさと、というわけではないのだ。

そして、その広大な地域の住民は650万人でしかない

 人口の少ない地域の経済発展をどう実現したらいいか。
 これは多分いまだかつて誰も解いたことがない問題である。
 日本でも、シャッター商店街に象徴される地方の疲弊とその克服を多くの専門家が論じている。
 どう客を集めるかに問題は収斂するが、様々な提案には 1つの大きな暗黙の了解がある。
 それは、やりよう一つで集まってきてくれる人々どこか近くに存在しているということだ。
 言うならば、近場での人間の動きの奪い合いの話である。
 従って、本当の過疎地で商店街を新たに興したり、ショッピングセンターを始めようとはさすがに誰も言わない。

 熱心に地域再生を説く論者も、
 「客も売り手も少な過ぎて困っている商店街は、そもそも必要なのか」
と、突き放している。
 人がいなければ、そこに経済と呼べるような動きが存在しようがないことは、自明の理だからだ。
 極東の人口は、ソ連崩壊後からの過去20年間で800万人から650万人に減った。
 日本では過去45年間に人口が33%以上減った地域が過疎地になる。
 この日本の定義に従えば極東は過疎地にならない、などと戯言(ざれごと)を言っている場合ではない。
 その定義には表れない人口密度を見たら過疎としか言いようがないのだから。

 しかし、人口密度で見た過疎地は、世界の中でほかにもある。
 そして、子細に見るとロシアの過疎が「中途半端」なものであることが分かる。
 極東の半分近くの面積(インドとほぼ同じ)を持つサハ共和国(ヤクーチャ)の人口密度は、極東の中でも最も少ない1平方キロメートル当たり0.3人だが、それでも豪州・北部準州の2倍、カナダ・北西準州の10倍もある。

中途半端な過疎が対策を難しくしている

 極東で最も人口密度の高い沿海州(同16人)に到っては、カナダ・アルバータ州の2倍、ブリティッシュ・コロンビア州の3倍、豪州・クイーンズランド州の5倍にもなる。

 ならば、カナダや豪州の過疎地がロシアの極東に比べてもっと惨めな生活をしているかと問えば、そうだと答える人は稀だろう。
 両国の場合、過疎地の人口は徹底して少ない。
 だから、国家の補助も全体では巨額にならず、1人当たりならかなりのことができる額にも増やせるはずだ。

 一方で、沿海州より人口密度が低い上述の地域では、人口の絶対数では沿海州(極東最大の200万人)を1.5~2倍も上回り、その地域のある集中した部分で1つの経済体を築ける規模に到っている。
 こうしたことから簡単な結論が導けるだろう。
 ロシアの極東は過疎であっても、国が補助して養うには住民の頭数が多くて負担が大き過ぎる。
 だが、独立した地域経済を成り立たせるためには逆にその頭数は少な過ぎるのだ。

 中途半端から抜け出すには2つの道がある。
 1つは徹底して住民の数を減らしてしまうことである。

 実際に1990年代にマガダン州での過疎の村に対し、世銀は他所への移転を促進させていたし、極北の都市・ノリリスクに対してもこれが行われた。
 極東で人がいなくなったなら、残された領土は資源輸送の通過と軍の配置による国防を残すだけの土地となる。

 このやり方は、しかしプーチンの受け入れるところではないだろう、少なくとも当面は。

 ならばもう1つの道である人口増加策に進むしかない。
 そうであるなら、その策に再び中途半端は許されない。
 結局はすでに述べたようなラジカルな開放政策しか、選択の余地はないことになるのではなかろうか。



 そしてもう一つの大国インドとは。



サーチナニュース 2012/12/03(月) 14:02
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=1203&f=politics_1203_006.shtml

中印が16度目の国境問題協議、解決の道遠く=中国報道

  中国メディア・中国経済網は3日、インドのメノン国家安全顧問が2日に北京入りし、3日に中国の戴秉国国務委員と中印国境画定問題にかんする特別代表会談を行うことを伝えた。

  中印国境問題については、中国の新しいパスポートに描かれた地図に当該地域が含まれていることに対してインド政府が反発、対抗措置を講じたとの報道が出たばかり。
 記事は、インド国内メディアが国境問題について触れ
 「これまで15回に渡り特別代表会談が行われたが、目標の達成には程遠い状況だ」
と伝えたことを紹介した。

  インドメディアは、双方の見解の相違は2005年に合意した
 「それぞれの立場から、有意義かつ双方が受け入れられる調整を行う」
との「政治指導原則」に対する解釈で顕著になっていると解説。
 「原則」について中国側が
 「広い面積を持つチベット南部の領土返還を要求するもの」
と解釈したのに対し、インドは
 「国境地域の小面積の領土について『ギブアンドテイク』行うもの」
と認識していることを紹介した。









_